中国の医学

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殷の時代(紀元前1700 年頃)、亀の甲羅を燃やして出来たヒビの状態から吉凶や方角を占う方法が用いられていた。最初の医療は、このような「占い」や「魔よけ」が主流であったようだが、その後、生薬などを用いた薬物療法や鍼灸治療が組み込まれていった。

前漢の時代(紀元前202 年から紀元後8 年)には、「黄帝内経」をいう最古の医書が編纂された。その内容は、素問と霊枢に分けられ、当時の黄帝が岐伯を始め6人の名医に病気の考え方を聞いたところからら素問と呼ばれた。

黄帝が岐伯に問う。「大昔の人々は、百歳を超えてもまだその動作が衰えることはなかったが、今時の人民を見ていると、50 歳になれば、もうよぼよぼしている。これは一体どうした訳だろうか?」

岐伯が答える。「大昔の人々は、養生の道理を弁えていて、飲食に節度があり、みだりに心身を過労させることがなく、肉体も精神も調和がとれていました。
ところが、今どきの者は、果汁を飲むかのように酒を飲み、酔っ払って女性を求めて情欲のままにその精力を消耗し、真気を失っている。このせいで、50 歳になるよぼよぼに老化してしまうのです。」この話、思い当たる節は、ないだろうか? 2000 年前のやりとりだが、今も同じようなことが言えると思う。
一方、霊枢は、古くは「九巻」や「鍼経」と呼ばれ、診断、治療、針灸術などの臨床医学に関することが記述されている。やがてそこへ生薬などの「薬物療法」や、「鍼灸療法」が組み入れられ、それと共に医学と宗教(占いや巫祝)は別れていった。
「素問」「霊枢」に一貫して流れる理論基盤は、陰陽五行説という中国独自の哲学思想である。
この時代、大事な神経や膵臓は発見されてなく、そのため経絡や気、ツボの理論が発展していったと考えられている。

●陰陽五行説

人間の生命活動が自然界の現象と同じように、陰と陽という二つの対立のもとに関係し合い、互いに依存し、抑制し合うというような関係が人間の身体にも当てはまるという考えです。光があるところには影があり、陰と陽の平衡関係によって、健全な自然界があるのと同じように、人間の身体にも陰と陽が存在し、健全な身体はこの平衡を保っている。
この関係性を中国哲学で陰陽論といい、身体の構造や働き、病気のしくみ、治療など、東洋医学ではこの陰陽論がすべての根底にある。

受動的な性質を「陰」、能動的な性質を「陽」に分類する。具体的には、闇・暗・柔・水・冬・夜・植物・女などが「陰」であり、光・明・剛・火・夏・昼・動物・男などが「陽」である。これらは相反しつつも、一方がなければもう一方も存在し得ない。森羅万象、宇宙のありとあらゆる物は、相反する陰と陽の二気によって消長盛衰し、陰と陽の二気が調和して初めて自然の秩序が保たれる。万物はこの二項対立によってすべて説明できるというのが陰陽論の考えです。

しかし、この二項対立は、互いに相反するものとはいえ、自然の中では全くの別物、相いれないものとは考えられていない。互いに影響し合い、助け合うことによって成立し、これを「依存」と「対立」という言葉で理解し、臓器相互の関係性など、人間の身体を観察する上でも重要な考え方なのです。

右の図は、『太極(陰陽)図』と呼ばれるもので、陰(黒)と陽(白)を表している。陰と陽が真っ二つに分かれているのではなく、交じり合っている。そして、陰の中に陽が、陽の中に陰がある。つまり、陰と陽が相互依存していることを表している。また、「陽極まれば陰となる」、「陰極まれば陽となる」という言葉がある。白勾玉には、黒点(=陽中陰)があり、黒勾玉には白点(=陰中陽)が描かれている。これは、陽の中にも陰があり、陰の中にも陽があり、「100%陽!」「100%陰!」というものはないという考え方を表している。つまり、「何が陽で何が陰かと分類することはあまり意味がないのではないか」ということがいえる。

風邪を例にとると、「疲れが溜まったため(免疫力が落ちたため)外敵であるウイルスの侵入を防げなかった。」と考えるのが東洋的である。
一方西洋医学は、西洋的発想に基づいて考えられている。

ヘーゲル(ドイツの哲学者、1770年~1831年)の弁証法では、ある命題()と、それを否定する反対の命題()、そして、それらを本質的に統合したものが命題()と考える。つまり、に対して、敵となるを作り、敵か味方かをまず考え、それをもとにを考える。
例えば、西洋医学は、薬草の成分を分析し、その中のどの成分が身体に良いのか、病気に効くのかを研究し、その成分だけを抽出して効率よく摂取するという方法を取っている。このため身体の各臓器を個々に探り、病気の原因を突き詰めて解明している。

先ほどの風邪では、正が人間、反がウイルス、合が薬と考えている。そのため、風邪を引くと風邪薬を飲むという行為をする。風邪薬は、あくまでも風邪の症状を抑えるだけで、風邪のウイルスを殺すものではない。東洋的な漢方薬では、薬草の成分を抽出するのではなく、薬草全体を用いて組み合わせ、肩・背中回りの血行を良くして(自然免疫力を高め)、体の回復を図る。

ウイルスがいるから風邪を引くと考える(西洋的)か、ウイルスはどこにもいて免疫力が落ちたから風邪を引いたと考える(東洋的)か、みなさんは、どちらの方法を選びますか?
ヒポクラテスの教えに基づくと、私は、免疫力を高めた方が得策のような気がします。

●五行論

陰陽論に加え、東洋医学を取り入れられている哲学に五行論がある。これはこの宇宙の森羅万象を五つの種類に分けて、その五つがお互いにどのように関連し、相互作用を働くかということを解明しようとした理論です。
自然界に存在する現象を、木・火・土・金・水、5 種類の元素からなるという説です。また、5 種類の元素は『互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し、循環する』という考えが根底に存在する。

○木(幼児)
樹木になぞられ、緑の青々としたイメージから何かの始まりを意味する。季節であれば春、人生であれば誕生。一日でいえば朝、色であれば青、朝日が象徴するように方位は東です。

○火(少年)
火は燃えているという感覚から、赤い、温かい、熱い、季節では夏を象徴する。夏は温かい、南風が吹くことから方位は南です。

○土(青年)
土は肥沃な土地をイメージし、収穫を意味することから季節でいえば実りの秋。ここでは初秋を意味する。土の色から黄色を象徴する。中国の広大な大地をあらわすので物事の中心、例えば皇帝なども意味する。

○金(壮年)
金属をイメージし、冷たい、固い、ということから厳しい、悲しいという意味もある。固い植物のみが実り、落ちるということから晩秋を意味し、冷たいイメージに色として白を意味する。

○水(老年)
火の反対を意味し、水が下に流れることから、下降現象の最後をイメージする。新しい生命の誕生を待つ期間と捉える。色は黒、季節は冬、その他、北、夜を象徴する。

五行の関係

五行の互いの関係には、「相生」「相剋」という性質が付与されている。

★相生関係(順送りに相手を生み出して行く、陽の関係)
☆木生火(木は燃えて火を生む)
☆火生土(物が燃えればあとには灰が残り、灰は土に還る)
☆土生金(鉱物・金属の多くは土の中にあり、土を掘ることによってその金属を得ることができる)
☆金生水(金属の表面には凝結により水が生じる)
☆水生木(木は水によって養われ、水がなければ木は枯れてしまう)

★相剋関係(相手を打ち滅ぼして行く、陰の関係)
☆木剋土(木は根を地中に張って土を締め付け、養分を吸い取って土地を痩せさせる)
☆土剋水(土は水を濁す、また土は水を吸い、常にあふれようとする水を堤防や土塁等でせき止める)
☆水剋火(水は火を消し止める)
☆火剋金(火は金属を熔かす)
☆金剋木(金属製の斧や鋸は木を傷つけ、切り倒す)

●陰陽と八卦

八卦爻と太極『易経』の卦は6 本の爻と呼ばれる棒によって構成されている記号であるが、爻には「─」と「–」の2 種類あり、易伝によりそれぞれの属性は陽・陰に当てられ、陽爻と陰爻を3 つ重ねた八卦、八卦を2 つ重ねた六十四卦は森羅万象を表象すると考えられた。これにもとづき漢代では卦の象徴や爻の陰陽にもとづいて解釈する易学がなされた。また繋辞上伝には「太極→両儀→四象→八卦」という生成論が唱えられているが、両儀は天地あるいは陰陽、四象は四時、八卦は万物と解されている。宋易(宋代に興った易学)では図書先天の学と呼ばれる図像を用いた象数易が行われたが、これらの易図では陽は白、陰は黒で描かれた。南宋の朱熹は先天図にもとづき「太極→両儀→四象→八卦」の両儀を明確に陰陽と位置づけ、さらに四象を爻を2 つ重ねたものとして太陽(老陽)・少陰・少陽・太陰(老陰)と名づけた。これらの考え方は、今の易の原理として、活用されている。

●経絡

東洋医学では血液のことを「気が入った血」すなわち「気血」という捉え方をしている。
気血とは生命活動のエネルギー源で、血液などを循環させ、新陳代謝や排泄を促す動力源のことです。体内の気血の巡りが良いと健康で、悪いと病気や体調不良だといわれている。
気血が全身を巡り、組織に栄養を与えていれば、健康体を維持できるため、気は生命を保つ源とも考えられている。その気を休むことなく、順調に全身に循環させる通路が経絡と呼ばれている。この経絡は、一定の道筋で六臓六腑を結んでいる。

○六臓六腑(中国で考えられていた各内臓)
☆六臓:肺・脾臓・心臓・腎臓・肝臓・心包
☆六腑:大腸・胃・小腸・膀胱・胆のう・三焦

※心包は実際にある臓器ではなく、架空のものです。心臓は人間の体の中でもっともよく働いている臓器なので、これを補佐し、保護するものとして考えられました。「心包」という名前は、心臓を大事に包む袋ということからつけられたものです。(現代医学的には、冠状動脈の可能性がある)
※「三焦」もまた、実質的な臓器ではありません。「三焦」というのは、三つの熱源という意味です。人間の体は、生きている間は温かいので、体の中に熱をつくる源があるに違いないという考えから生まれた東洋医学独自の考え方で、上焦・中焦・下焦に分けられる。


もし、これを現代医学的に考える場合は、膵臓に該当させるのが妥当であろう。
そして六臓六腑が、連絡を取り合い、体内の調整を行い、健康を維持するシステムになっていると考えている。その連絡を取り合う代表的なものが、12の経絡と体の前後に位置する任脈、督脈という2つの経路で、あわせて14経路ある。これらのうち、六経絡が手から始まり、六経絡が足から始まる。手から始まる六経絡、足から始まる六経絡にはそれぞれ三経絡ずつ陰陽論に基づいた陽経と陰経がある。これは人間が四つん這いになったとき、陽に当たる所を通る経絡を陽経、陽の当たらない所を通る経絡を陰経としている。

★手の陽経:手の陽明大腸経・手の太陽小腸経・手の少陽三焦経
★手の陰経:手の太陰肺経・手の少陰心経・手の厥陰心包経
★足の陽経:足の陽明胃経・足の太陽膀胱経・足の少陽胆経
★足の陰経:足の太陰脾経・足の少陰腎経・足の厥陰肝経

●経穴(ツボ)

これら経絡の中で気が滞る場合、その反応が出る場所が経穴(ツボ)です。経穴の数はは、2006 年、筑波で行われた経穴部位国際標準化公式国際会議で361 と決定された。これは、日本で教育されてきた354 穴より7 穴多い数である。

ツボを触って、または押して痛みを感じるようであれば、経絡上で結ばれた内臓諸器官に問題があると判断をする。つまり、ツボを診ることによって、体の不調などを判断できるというのが東洋医学の考え方なのです。そして痛みを感じるツボに、鍼や灸、そして指で刺激を与えることで気の流れを良くし、経絡上で結ばれた内臓諸器官の状態を良くし、より健康体に近づけることをツボ療法と呼んでいる。
※このツボの位置に関しては、本場中国と日本、韓国では微妙な位置の違いがあったが、最近WHO(世界保健機構)によって361か所の世界統一基準が設定された。しかし、実際には経絡上にはない特殊なツボもあり、それらは、奇穴と呼ばれている。

★肺経:呼吸器・循環器を支配する。(WHOでは、LUと表記される11穴)

関連症状:動悸・息切れ・気管支喘息・アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎など

★大腸経:消化器を支配する。(WHOでは、LIと表記される20穴)

関連症状:便秘・下痢・大腸炎・痔・腸閉塞・歯痛・眼精疲労など

★胃経:胃腸を支配する(WHOでは、STと表記される45穴)

関連症状:胃もたれ・胃酸過多・胃痙攣・消化不良・食欲不振・口内炎など

★脾経:胃腸や膵臓・脾臓を支配する(WHOでは、SPと表記される21穴)

関連症状:食欲不振・婦人疾患・冷え性・糖尿病・不妊症・生理痛・便秘など

★心経:心臓の機能を支配する(WHOでは、HTと表記される9穴)

関連症状:心臓肥大・心筋梗塞・心不全・貧血・高血圧など

★小腸経:消化・腸管を支配する(WHOでは、SIと表記される19穴)

関連症状:下痢・便秘・腸炎・難聴・耳鳴りなど

★膀胱経:排泄器を支配する(WHOでは、BLと表記される67穴)

関連症状:膀胱炎・夜尿症・尿道炎・前立腺肥大・後頭部の痛み・眼精疲労など

★腎経:排泄器・生殖器を支配する(WHOでは、KIと表記される27穴)

関連症状:性欲減退・腎盂炎・婦人疾患・耳鳴り・下痢など

★心包経:呼吸・循環器系を支配する(WHOでは、PCと表記される9穴)

関連症状:動悸・息切れ・心筋梗塞・動脈硬化・低血圧症・冷え性など

★三焦経:消化・腸管系を支配する(WHOでは、TEと表記される23穴)

関連症状:発熱・難聴・喉の腫れ・慢性的内臓疾患・手足の冷え・手の震えなど

★胆経:胆のうや消化・膵肝系を支配する(WHOでは、GBと表記される44

関連症状:胆石・胆のう炎・十二指腸潰瘍・偏頭痛など

★肝経:肝臓・膵臓を支配する(WHOでは、LVと表記される14穴)

関連症状:肝炎・立ち眩み・めまい・腹痛・腰痛・婦人疾患・泌尿器疾患など

★督脈:呼吸器・消化器・泌尿器系など全身のエネルギーとも関連が深い(WHOではGVと表記される28穴)

関連症状:喉の痛み・腹痛・痔・不妊症など

★任脈:生殖器系とも関連が深く、全身のエネルギーを調整する(WHOでは、CVと表記される24穴)

関連症状:前立腺肥大・婦人疾患など

※詳しいツボの名称や効能に関しては、PDFを参照してください。